2004年3月14日 12:14 更新
大分県安岐町出身。1985年 愛媛大学大学院工学研究科修士課程修了. 同年住友電気工業(株)入社.
光LAN装置の研究開発に従事. 1991年愛媛大学工学部助手.2000年助教授とな
り現在に至る.スペクトル拡散用符号設計, CDMAプロトコル, コンピュータネッ
トワーキング, 電力線通信, DV動画像のリアルタイム伝送方式などの研究に従事. 著書として「電力線通信システ
ム(共著, トリケプス, 2002年)」. 博士(工学). 第一級無線技術士、(第一種電気工事士試験合格)認定電気工事従事者,
第二級アマチュア無線技士
(100文字版)
携帯電話のcdmaOneやFOMAで実用化されている、スペクトル拡散技術の研究をしています。ただし、対象は携帯電話ではなくて家庭内の電灯線にデータを流して、ホームネットワークの実現を目指した研究です。
学生のころから真空管ラジオの製作やアマチュア無線に興味がありました。大学に入ったころ、ちょうど光ファイバの実用化に成功した時期で、光を使った高速通信の実現に夢を抱きました。民間企業に就職してからは、光LAN(local area network)のハードウェアの開発に携わることができ、コンピュータネットワークに興味をもつようになりました。
電力線通信に取り組んだきっかけ
大学に戻った時、出会った研究テーマがスペクトル拡散技術です。その当時(今もそうですが)、携帯電話用にスペクトル拡散技術の研究開発が盛んに行われていましたが、後発の私としては、キャッチアップするのは大変だろうと判断し、研究の対象を携帯電話ではなくて家庭内の電力線にしました。下記のように電力線は劣悪な伝送条件ですが、スペクトル拡散技術はそれを克服する、優れた要素技術のひとつです。
電力線は家庭内のどこにでもある線路ですから、電力供給だけでなく情報も送ることができれば、非常に合理的です。特に、家庭では、オフィスと違って、ネットワーク用の配線を新規にするのは疎まれるますし(配線するために壁に穴を開けるのはいろいろ大変)、パソコン周辺の配線がくもの巣になって掃除が大変とぼやかれることが多いはずです。電力線通信が実現できれば、新規工事は不要ですし、配線は給電用のACコードだけで済みます。このような魅力のため、従来から電力線通信の開発は行われていたのですが、なかなか実用化されませんでした。
電力線は、元々50/60ヘルツの電気エネルギを送るためのケーブルであり、通信用の高周波信号の減衰が大きい。コンセントの先につながる電気機器や、配線形態(長さ、分岐数)によって伝送特性が変わる。通信専用線であれば、それらは管理できるが、電力線はできない(電力線通信をするからといって、電気機器を外せないし、配線を変えることもできない)ため、設計マージンがかなり必要となる。
コンセントの先につながる電気機器によって特性が変わる。通信専用線に比べるとノイズはかなり大きいし、管理もできない。
劣悪な伝送特性やノイズ特性に対して、スペクトル拡散やマルチキャリア変調方式(後述)が有望。
電力線通信用の高周波信号は線路に流したとき、線路に閉じ込めておくことができず、空中に放射される。その結果信号減衰量が大きいわけである。放射電力によっては、電力線通信と同じ周波数を使う無線機やラジオに障害を与える可能性がある。これを回避するには、送信電力密度をできる限り小さくすることと、電力線の伝送特性やノイズ特性を可能な限り管理する必要があります。
かつて”ニューメディア”という言葉がはやされたころ(80年代後半)、ホームオートメーション用の規格としてHBS(ホームバスシステム)が策定され、そのサブバスとして電力線通信も規格ができた(1988年)。しかし、実際にさほど普及しなかったのは、上記技術的な困難もさることながら、ホームオートメーションを導入したいという市場のニーズがまだあまりなかったことがあげられます。
しかし、この1ー2年、急激にホームネットワーク需要が高まっているのは、インターネットやパソコンの普及、地球温暖化問題対策としての省エネ意識の高揚、治安の悪化によるセキュリティシステムの需要、社会の高齢化に伴う老人介護やライフサポートに対する需要、等さまざまな要因に支えられており、今度は本物であると思っています。
ホームネットワーク需要の高いアメリカでは、電力線通信で10Mbps級の通信が可能なモデム(homePlugと呼ばれる規格に準拠)が今年になってから市販されはじめました。実売価格は1台70ドル程度ですから、電話線を使ったhomePNA規格の置き換えがターゲットのようです。 homePlugは、ADSLや地上波デジタル放送で使われているマルチキャリア変調方式を採用しており、劣悪な伝送特性のうち比較的ましな帯域を選択して使用し、また無線局への電磁障害が予想される周波数帯をスキップすることが、比較的容易にできる方式です。ただし、その分、使用している周波数帯域での電力密度は高いので、それなりに電磁波を放射します。比較的法律による規制が寛容(ただし、自己責任はキツイ)なアメリカでは、製品化できましたが、わが国では法律の改正が必要です。
わが国の電波法では、10kHz〜450kHzが電力線通信に使える帯域ですが、上記のような高速通信を実現するためには、もっと広い帯域が必要です。今年の4月から7月にかけて、2MHz〜30MHzの帯域を電力線通信用に許可できるかどうかについて総務省で検討しました。その結果、アメリカ並の緩やかな規制では、短波放送、アマチュア無線、あるいは電波天文等で深刻な影響が懸念されるとして、当面は許可しないとの結論を出しています。
私を含めて、電力線通信で新しいビジネスチャンスを標榜していた人たちからみると、落胆する結果となりましたが、長い目で見ると、ここで無理して許可しなくてよかったかもしれません(そう言えるようにするために、これからが正念場です)。というのも、今許可しても、made in USAの技術がわが国の市場のおいしいところを食い荒らすだけに終わる懸念があるからです。日本の電力線事情にマッチし、かつ放射電磁障害のより少ない、優れたmade in Japanの技術を確立していく時間の猶予を頂いた、と考えています。
ただし、そうした技術を今後検討するうえでも、屋内のしかも通信範囲を数m程度に限定でいいから、実環境で実験できるような規制緩和は必要であると考えています。現状では、電波暗室内でないと開発できないという状況です。無線(RF)では電力強度によって、微弱、特定小電力、といった範疇があるのと同様です。
能率最優先のオフィスでのネットワークと、居住空間である家庭内のネットワークとでは、今はあまり差はありませんが、今後は異なった進化をたどると考えてます。ホームネットワークのキーワードは”やさしさ”です。
こうしたネットワークを実現しようとすると、おのずと、ホームネットワークと称されている現在のネットワーク、つまりADSLモデムから無線あるいはイーサネットでPCを接続するネットワーク、はごく一部でしかないことに気が付きます。PCだけでなく、家中のありとあらゆる電気製品や、住宅設備(照明、給湯、ガス、水道、etc)はすべてネットワークにつながって、コントロールできたり、いろいろなサービスを提供できるようになっていく必要があります。
100ボルトのコンセントにつながっている機器は、すべて電力線通信で収容できれば、それにこしたことはないでしょうが、適材適所で、各種通信手段が住み分けていくようになることでしょう。高速な通信速度を要求する高品質動画像は光ファイバで、バッテリで動くものは無線でと、いった具合です。電力線通信でカバーできるのは、せいぜい数10Mbpsまでだろうと思っていますが、数bpsのものから数10Mbpsまでシームレスにつながることが特長といえます。
地域の情報化関係の仕事に最近携わるようになって、以下のことを考えるようになりました。
地域の情報化ということで、情報基盤の整備(ファイバやネットワーク機器といった、いわゆる箱もの)が各所で行われており、幹線系は随分整備さえてきた感があります。これにより産業の誘致や起業に成功している例もいろいろ聞くようになりました。これからはこうしたネットワークを、どのように面で広げるかが問題です。特に経済原理ではどうにもならない地方(僻地)対策です。
電話と電気はユニバーサルサービスであり国策として、どんな田舎でも均質なサービスを受けられますが、IP網になると、まだそうした決断はできにくい状況です。インターネット電話・VoIPだけでは、単なる電話サービスの実現手段の置き換えですから、そうしたモティベーションにはなりえません。従来の電話でできなかった、かつ生活するうえで必須といえるサービスが提供できるようにならないと、ユニバーサルサービスに位置付けられないでしょう。そういう意味で、上記のホームネットワークでどんなサービスを提供するのか、ということを考えることと同じです。こうした、ボトムアップのアプローチも重要かもしれません。
学生さんに望むこと
学生時代に一生懸命やったことは、あとに残ります。卒業研究を私といっしょに一生懸命やってみませんか?!
随時歓迎です。Email等で連絡してください。例はあまりないですが、遊びにきてくれた高校生がいました。ひとしきり、コンピュータやインターネットの話をして帰りました。
アウトドアスポーツはいろいろやりましたが、山登りが一番性にあっていたようです。でも北アルプスで落石事故に遭遇して、足を痛めてからは、完全復帰にいたらず 悶々としている今日このごろです。
携帯電話のcdmaOne等で実用化されている符号分割多元接続(CDMA)方式の要素技術である、スペクトル拡散技術の研究(特に拡散符号の設計, 及びネットワークアクセス手順)を行なっている。適用対象通信路として、家庭内、家屋間の電力線通信に注目しており、高速高信頼なホームネットワークの実現を目指している。
インターネットに代表されるTCP/IPプロトコルを用いたコンピュータネットワークでは、パケットの到着時間の揺らぎがマルチメディア等のストリームデータの伝送時に問題となる。その解決方法として、音声や映像の再生アルゴリズムの開発や、QoS polisyに基づくパケット中継(ルーティング)方式の研究を行なってきた。最近は、超高速ネットワークを前提とした、DVデータ(デジタルハンディカムの動画像データ)のリアルタイム伝送装置の開発に取り組んでいる。
一方、上記ホームネットワークに関連して:家庭内で最もユービキュタスな通信線路である電力線(ウォシュレットの普及で、最近はトイレにもコンセントは必ずあります)を使って、各種センサを家中に埋め込み、ホームセキュリティ、ライフサポートといったサービスを実現すべく、ユービキュタス通信環境の構築に取り組んでいる。