●伝送特性
電力線は、元々50/60ヘルツの電気エネルギを送るためのケーブルであり、通信用の高周波信号の減衰が大きい。コンセントの先につながる電気機器や、配線形態(長さ、分岐数)によって伝送特性が変わる。通信専用線であれば、それらは管理できるが、電力線はできない(電力線通信をするからといって、電気機器を外せないし、配線を変えることもできない)ため、設計マージンがかなり必要となる。
●ノイズ特性
コンセントの先につながる電気機器によって特性が変わる。通信専用線に比べるとノイズはかなり大きいし、管理もできない。 劣悪な伝送特性やノイズ特性に対して、スペクトル拡散やマルチキャリア変調方式(後述)が有望。
●放射電磁界
電力線通信用の高周波信号は線路に流したとき、線路に閉じ込めておくことができず、空中に放射される。その結果信号減衰量が大きいわけである。放射電力によっては、電力線通信と同じ周波数を使う無線機やラジオに障害を与える可能性がある。これを回避するには、送信電力密度をできる限り小さくすることと、電力線の伝送特性やノイズ特性を可能な限り管理する必要があります。
●アプリケーション
かつて”ニューメディア”という言葉がはやされたころ(80年代後半)、ホームオートメーション用の規格としてHBS(ホームバスシステム)が策定され、そのサブバスとして電力線通信も規格ができた(1988年)。しかし、実際にさほど普及しなかったのは、上記技術的な困難もさることながら、ホームオートメーションを導入したいという市場のニーズがまだあまりなかったことがあげられます。
しかし、この1ー2年、急激にホームネットワーク需要が高まっているのは、インターネットやパソコンの普及、地球温暖化問題対策としての省エネ意識の高揚、治安の悪化によるセキュリティシステムの需要、社会の高齢化に伴う老人介護やライフサポートに対する需要、等さまざまな要因に支えられており、今度は本物であると思っています。
●法律の規制と緩和
ホームネットワーク需要の高いアメリカでは、電力線通信で10Mbps級の通信が可能なモデム(homePlugと呼ばれる規格に準拠)が今年になってから市販されはじめました。実売価格は1台70ドル程度ですから、電話線を使ったhomePNA規格の置き換えがターゲットのようです。
homePlugは、ADSLや地上波デジタル放送で使われているマルチキャリア変調方式を採用しており、劣悪な伝送特性のうち比較的ましな帯域を選択して使用し、また無線局への電磁障害が予想される周波数帯をスキップすることが、比較的容易にできる方式です。ただし、その分、使用している周波数帯域での電力密度は高いので、それなりに電磁波を放射します。比較的法律による規制が寛容(ただし、自己責任はキツイ)なアメリカでは、製品化できましたが、わが国では法律の改正が必要です。
わが国の電波法では、10kHz〜450kHzが電力線通信に使える帯域ですが、上記のような高速通信を実現するためには、もっと広い帯域が必要です。今年の4月から7月にかけて、2MHz〜30MHzの帯域を電力線通信用に許可できるかどうかについて総務省で検討しました。その結果、アメリカ並の緩やかな規制では、短波放送、アマチュア無線、あるいは電波天文等で深刻な影響が懸念されるとして、当面は許可しないとの結論を出しています。
私を含めて、電力線通信で新しいビジネスチャンスを標榜していた人たちからみると、落胆する結果となりましたが、長い目で見ると、ここで無理して許可しなくてよかったかもしれません(そう言えるようにするために、これからが正念場です)。というのも、今許可しても、made
in
USAの技術がわが国の市場のおいしいところを食い荒らすだけに終わる懸念があるからです。日本の電力線事情にマッチし、かつ放射電磁障害のより少ない、優れたmade
in Japanの技術を確立していく時間の猶予を頂いた、と考えています。
ただし、そうした技術を今後検討するうえでも、屋内のしかも通信範囲を数m程度に限定でいいから、実環境で実験できるような規制緩和は必要であると考えています。現状では、電波暗室内でないと開発できないという状況です。無線(RF)では電力強度によって、微弱、特定小電力、といった範疇があるのと同様です。 |